2003 年 6 月 15 日、「渡邊フォント」などの名称で呼ばれ、広く利用されている 32 ドットビットマップフォントが、既存の製品をまるごとコピーした物であったことが判明しました。
複製元のフォントはタイプバンク明朝 M (TBMM) の 32 ドットビットマップですが、現在の物は若干異なるようです。1980年〜1986 年の間に日立製作所デザイン研究所 (現在の日立製作所デザイン本部) との共同開発で作成され、ROM として販売された明朝体ビットマップと同一の物と推測されます。
リョービ印刷機販売株式会社 (現在のリョービイマジクス株式会社) の PR 誌「アステ」Vol.1 No.2 (1984 年 12 月 6 日発行) に挟み込まれていた、記事「ワープロ書体解析 低ドットデジタル書体」(林隆男) の p.13 頭注を補足する訂正票に、「義太夫」の 3 文字が例示されているのを発見しました。このドットパターンを 32 ドット BDF フォント (XLFD は -watanabe-fixed-medium-r-normal--32-300-75-75-c-320-jisx0208.1983-0) と対照してみたところ、完全に一致することが分かりました。
その後、同誌の表紙、p14, p16 及び書籍「書体を創る 林隆男タイプフェイス論集」(ジャストシステム、1996 年 11 月 15 日初版第 1 刷発行。ISBN:4-88309-431-6) のカバー裏表紙、p.43 図 37, p.88 図 76, p.105 図 81, p.116 図 92-1, p.162 図 113-4 にも、このフォントと一致する文字が見つかりました。
以下の 20 文字が、1ドット単位で同じ物であることが確認された文字の一覧です。
ひ む 亜 茜 圧 或 杏 尉 維 亥 茨 飲 宇 泳 家 義 太 電 夫 木
また、数十字の異なり字数にのぼる組見本でも、印字のドットが潰れて正確な比較は不可能なものの、今のところ異なるドットパターンをもつことが確認できた文字はありません。
「書体を創る」には、確認したフォントと一致しない文字が 4 文字あります。p38 図 29「左」・p76 図 62「本」・p80 図 66「書」・p87 図 75「む」です。このうち、「本」「書」「む」は同書内の異なるサンプルで、完全に一致する字形が見つかりました。「む」は、「アステ」の図と再録された「文字を創る」の図の間で異なりがありますので、ドットパターンの改訂が行われたものと推測されます。唯一残る「左」も、変更点は真中の横画のウロコの大きさが異なるだけですので、同様に改刻が行われた物と推測されます。「本」「書」の 2 文字については、文字セットとしてでなく単独で例示されたもので、説明用などの目的に TBMM とは独立に作られたもののように思われます。
32ドットビットマップフォントとして配布されているほかに、これを平滑化してアウトライン形式に変換した TrueType フォントは、東風フォントの作成プロセスにおいて参照されています。
東風フォントは、オリジナルなエレメント設計に基づいた明朝体/ゴシック体ですが、全体的な字形バランスのうえで、参照元のフォントの字形バランスの影響を受けています。その結果、一般的な明朝体フォントの書体設計と比較して特異的な特徴を元のビットマップとも共有しています。知的所有権侵害の問題を重く見て、東風フォントの作者である古川泰之さんが公開を停止されたのに伴い、狩野が変換している CID/OpenType 版の東風フォントの公開を停止しました。
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